鹿児島県の公式サイトを見ると、根拠地別の漁船数という統計を閲覧できる(リンクは平成28年12月のもの)。

ただ眺めるだけでも、いろいろ考えさせられる表だ。たとえば、漁船数総数では出水郡長島町に1,315隻の漁船がいる。

2位の薩摩川内市が828隻だから、圧倒的だ。




しかし、市町村別では広い狭いもあるから、もっと正確に傾向を見るために、少しざっくり、地域別に眺めてみよう。

これで見ると、長島町を抱える出水地区がやはり1位だが、大島郡や肝属郡も健闘している。

もう一つ気になるのは、200t以上の漁船は、鹿児島県全体で45隻しかないのが、そのうち38隻がいちき串木野市に存在することだ。

マグロだろうか。

漁船数とは直接関係ないが、こうしてリストを眺めると、志布志なら底引きだろうか、曽於郡大崎町ならちりめんだろうか、あるいは霧島市なら、カツオ漁船のエサ用のイワシでも獲っているのだろうかと、あれこれ想像してしまう。それがそれらの地区の全てではないだろうし、メインですらないのかもしれないが、それぞれの町ごとに、統計に表れない個性はあるのだろうと思う。

さて本題に戻って、絶対数が多くても、人口が多い町であれば、それだけ漁船、漁業といったものは身近でないのではないかと予想される。たとえば鹿児島市は県内3位の739隻の漁船を抱えるが、市内で漁業がそれほどインパクトがあるとは思えない。

そこで、漁船数を人口で割った、「人口千人あたり漁船数」を算出した。人口は、wikipediaで検索した、平成29年10月現在のものを用いた。

それを地区別にざっくりまとめるとこのようになる。

予想通り、鹿児島地区の数値は大きく下がる。伊佐地区が0なのは、言うまでも無くこの地区が海に面していないためであるから、これを除くと鹿児島地区は最下位となる。

一方で、長島を抱える出水地区はやはり多く、熊毛、大島の離島勢がそれに続く。

一方で、市町村別の人口あたり漁船数を、降順で並べるとこうなる。

とりあえず長島を脇へ置いておくと、その後には十島村、三島村、宇検村(奄美大島)と続き、その後も離島勢が多く続く。

鹿児島県本土のほとんどの地区は鹿児島市やその周辺の商工業地域に通勤できる。その分、多くの人口を抱えることができるのではないか。

一方で、離島の場合は鹿児島周辺に通勤できる可能性は無い。奄美大島周辺では、船での通勤も行われているが、基本的には島内で通勤圏が完結している。

このために、島の経済を支える産業としての漁業の比率が大きくならざるを得ないのだろうと思われる。このグラフの序列を見る限り、人口あたり漁船数が、地域経済に対する漁船漁業のインパクトをある程度反映していると言って良いだろう。

一方で、個々の島を眺めると、いろいろと不思議な現象が見えてくる。たとえば、人口5千人・面積21km2にすぎない与論島の漁船数(199隻)が、より大きく、人口も多い沖永良部島(177隻)や徳之島(181隻)よりも多いのはなぜなのだろうか。

与論島の面積は、トカラ列島(十島村)最大の島である中之島よりも小さい。人口は中之島よりも圧倒的に多い。そもそも与論島は比較的平地が多く、農業を営むこともできるのだ。だが、そんな与論島が、漁船数の絶対値で徳之島や沖永良部島を上回っている理由は、とりあえずわからない。

このようにわからないことはあるが、いずれにしても、離島では漁業の重要性が本土よりも大きいという、イメージしやすい現象が上の図表から裏付けられる。

しかし、だとすると、なおさら長島の特異性が際立ってくる。与論島よりも大きい地積にわずか158人の人口しかいない中之島。しかしそれでも中之島は、十島村では面積人口が最大の島なのだ。

そんな十島村を、人口あたり漁船数で上回る長島。長島は本土と橋でつながっており、大きな工場をいくつも抱える川内ぐらいまでの通勤は可能だ。十島村などと比べれば、漁業に依存しなければならない切迫性は、全然少ない。にもかかわらず、これほどの漁船を抱えるということは、要するに、それだけの漁獲があるからではないかということを推測させる。これだけの漁船を満足させられるだけの魚介が、長島にはいるのだ。

東町漁協のサイトより)

実は長島は、鹿児島県にありながら天草の一部である。戦国時代の1565年、出水の領主島津義虎が、叔父の島津忠兼に命じて長島を征服させた。爾後、元来肥後に属していた長島は薩摩の一部となったという経緯がある。

八代海に面した天草は、言うまでもなくその名も轟く好漁場である。熊本県のサイトを閲覧してみると、上天草市、苓北町、天草市の3市町の各漁協の合計で4,481隻もの漁船を抱えている。これと比べれば、長島の1,315隻も無理な数ではない。

そこに魚がいれば獲れる。魚がいれば漁船も増える。何も漁業だけを振興しなければならない理由はないが、長島の事例は、魚が増える取り組みが功を奏せば、地域の経済を支える柱を一つ育てることができることを示している。

 

スポンサーリンク