伊勢神宮では、月別の参拝者数を公表している。
こういうデータは、とても大事だと思う。
なりふり構わぬ客寄せが良いとは思わないが、少なくとも神社仏閣は、何らかの心の隙間を満たしてほしいと思う。
参拝者数は、それをある程度反映していると言える。
さて、伊勢神宮の参拝者数には際だった特徴がある。
1月が圧倒的に多いのだ。
考えるまでも無く、これは初詣のためだ。
神社なんだから当たり前だと思う向きもあるかもしれないが、そうではない。
そのことを確認しよう。
次の図を見てほしい。これは宮島の来島者数を表したものだ。
が、宮島への来島の目的は、ほとんど全てが厳島神社への参拝なのだから、実質的には厳島神社の参拝者数と読み替えても良い。
見ての通り、伊勢神宮のような傾向は全然出ていない。
宮島は、政令指定都市である広島市から指呼の間にある。立地の点ではむしろ伊勢よりも恵まれている。
それなのに、というべきか。だからこそ、というべきか。
あるいは広島市民は日頃から頻繁に来島するのかもしれないが、少なくとも、初詣に真剣な願いをこめるために来島するところ、という感じではなさそうだ。
その傾向がさらに顕著に現れるのが日光である。
日光は東京からの私鉄の終点に位置し、その意味では伊勢と似た立地にある。
残念ながら東照宮単体でも、二社一寺(東照宮、二荒山神社、輪王寺)まとめてでも、来訪者の統計は見当たらなかった。
そこで、公表されている日光市への観光客数で読み替えることにする。
幸いなことに、この統計は旧市町単位で公表されている。
日光市を構成する五地区のうち、今市、栗山、足尾は数の上では取るに足らないから、二社一寺を抱える日光と、鬼怒川温泉を抱える藤原を眺めてみよう。
なお日光には中禅寺湖や戦場ヶ原を含む奥日光が含まれるが、ざっと現地を見たところでは二社一寺のほうが遙かに観光客数が多いので、この数字は二社一寺を反映したものと見て良いと思う。
「入込数」の意味がよくわからないが、来訪者だと考えて話を進める。
一年中まんべんなく観光客が訪れた宮島とも違い、日光では10月が多い。
日光は紅葉の名所である。それに違いない。
逆に、1月は2月と並んで最低に近い。
伊勢神宮と比較すると、東照宮の来訪目的に「信心」の色合いがかなり薄いことが読み取れる。
人は心の救いを求めて日光に来るのではなく、素晴らしい景色を眺めに来るのだ。
ただし藤原にはそこまでの傾向は出ない。
ところで、藤原は藤原で面白い傾向が読み取れるので、ついでに見てみよう。
次の図は同じ日光市の宿泊者数である。
来訪者数では日光が藤原を圧倒していたが、宿泊者数は拮抗している。
年間で見ると藤原(167万人)のほうがむしろ多い(日光は155万人)。
宿泊地としては、日光よりも藤原のほうが評価が高いと言えよう。
日光を観光して鬼怒川に泊まるという流れがあるのか。
逆に日帰り客は鬼怒川には足を向けないということか。
この年(平成27年)の6月にいたっては、なんと藤原では観光客入込数(10.7万人)よりも宿泊者数(12.1万人)のほうがむしろ多いという統計結果であった。
なお、苺や干瓢もよいが、日光では湯波がお薦めである。
(※)指摘を受けて修正