ずっと昔から、農家の経営の大規模化の必要性を、耳にたこができるほど聞かされてきた。
曰く、海外の安い農産物に対抗するためには、経営を大規模化してコストを下げることが必要なのだ、ということだ。
しかし実際のところ、農業を経営しているわけでもないよっくすにはその必要性がいまいち理解できなかったので、ここで計算してみることにした。
今回は栃木県の稲作を例に挙げてみよう。
農林水産省の統計を見ると、栃木県の水田の総面積は58,500haである。
これは585km2にあたるから、まとめるとおよそ30km×20kmぐらいだ。
栃木県の西半分は高い山だし、北半分は那須の荒野だから、こんなもんだろう。
この土地に対し、10aあたり550kgの収穫がある。
県全体では322トンの収穫があることになる。
一方で米の単価は、銘柄によっても異なるが、60kgあたり15,000円ぐらいだ。
したがって、栃木県の稲作では、1aあたり13,750円の生産額があることになる。
一方で、農水省統計によれば、1aあたりの生産コストは、平均的には8,357円だということだ。
もっとも、経営面積が拡大するほど1aあたりコストは下がるということだが、ここでは平均値を用いて計算する。
すると1aあたりの利益は5,393円だということになる。
10m×10mで、1年あたり5千円だ。
さてそうすると、全県では315億円の利益があることになる。
まさにチリも積もればマウンテン。
さてそこで問題です。
そうなると、農家1軒あたり年間500万円の利益(サラリーマンで言えば給与)を得るためには、栃木県全体で農家数が何軒であればいいでしょうか?
正解は6,309軒。そして、その場合、1軒あたり9haの水田を経営してもらうことになる。
表にまとめるとこうなる。
ご覧の通り、実際には農家が4万軒もあるため、農家1軒あたりの利益はわずか78万円となる。
年額78万円で生活していくのはとても無理だ。
裏作で麦など作ったとしても知れてる。
しかし、現状、もし無理に大規模化を進めれば、必ずしも失業とは言わないまでも、大勢の人が収入の道を断たれて困ることは目に見えている。
もちろん、稲作は果樹ほど手がかからないこともあり、平日はサラリーマン等の職に就きながら、休日だけ小規模に農業を営むようなことも可能だ。
必ずしも稲作が本業でなくても、維持していくことはできるのだ。
とくに栃木県は、ほぼ全域から県都宇都宮への通勤が可能である。
しかしそれはあくまで趣味の農業であって、あまり効率的な農業の営み方ではないように思える。
小遣い稼ぎと考えても、手間の割に得られるものが小さすぎる。
やはり本筋は、現状4万軒の農家が6千軒まで減って、1軒あたり9haの農地を経営してくれることなんだと思う。
現代の科学技術の進歩は、おそらくそれを可能にしている。
本来それは素晴らしいことなのだ。
一人あたりの収穫量が増えるからこそ、原始時代の自給自足から脱して、余剰の生産で養える人口が増えた。
だから政治家も、兵士も、科学者も養えるようになって社会が発展したのだ。
同じ土地を経営するのに必要な人員が4万人から6千人に減るのなら、余った3万4千人で何か一仕事できるはずなのであり、その道を示すことができていないことこそが問題なのである。