沖縄県の基地問題が連日ニュースとなっている。

政府の計画では、宜野湾市の普天間飛行場を、名護市の在日米軍基地「キャンプ・シュワブ」内に移設しようということになっている。

いわゆる辺野古新施設だ。キャンプ・シュワブ内の辺野古岬付近に建設される計画なので、そう呼ばれる。




 

市街地に位置する普天間飛行場はかねて危険性が指摘されていた。

政府の計画では、普天間飛行場の機能を損なわずに危険を極力減らすために、人口が少ない地域に移設し、なおかつ移設先を既存の基地内とすることで、基地を1つ減らすことができる。

既設の基地の敷地を利用するので、米軍も基地の削減を飲んだことになる。

結果を見れば、苦心の検討と交渉の末の結論だということはわかる。沖縄島民の熱意と、それに動かされた政府の努力の結晶だと言えよう。

が、沖縄県の選挙の結果は、必ずしもこの判断を歓迎していないようだ。理由は自然の保護だという。

そもそも市街地の基地の危険性への対応として移転が決まったのだから、移転先の自然が豊かなのは当然である。

それを批判されては政府も立つ瀬が無かろうが、もちろん守れるものなら自然は守れたほうが良い。

問題は程度だ。もちろんキャンプ・シュワブ地先には貴重な天然の生物がいるが、那覇の海にも、沖縄本島のその他の地域にも生物は存在していて、ある程度は開発のために犠牲になっている。

だから現存の自然を全体的に把握し、どこまで開発し、どの程度を守るのかを明示することが必要だ。

結果、他に適地が見つかるかもしれない。

もうひとつ考慮すべき事は、市街地に基地が存在するのは沖縄県だけではないし、開発と自然保護の狭間にあるのも沖縄県だけではないことだ。

そうした、同様の課題を抱える他県と情報を共有し、また連帯して政府と交渉したほうが、有効な解決につながるのではないだろうか。

1県だけ、1島だけの問題ならば対処療法でなんとかなるかもしれないが、全国的な問題ならシステム的な検討が必要になり、政府としてもより真摯に取り組む必要が高まる。

だから、市街地の基地問題にせよ、開発問題にせよ、基地の問題を沖縄本島独自の問題とみなしてしまっては、かえって解決を遠ざけるのではないかと思うのだ。

沖縄県民とて沖縄県さえ良ければ他県民がどうなってもいいと考えているわけではないだろう。

また県民の中でも沖縄島民とそれ以外の島民では異なった意見を持っているかもしれない。

関係者がよく相談して、適切な解決策を見つけてほしい。

さて、国内の連帯という問題を提起したので、他県での基地の実例を挙げてみよう。

神奈川県は有名な厚木飛行場や横須賀港を擁している。

ことに横須賀は米軍唯一の航空母艦の国外の母港であり、原子力空母「ロナルド・レーガン」が配備されている。

つまり質的な重要性、あるいは基地の負担という点で、神奈川県は一面では沖縄県を上回る。

そんな神奈川県は東西78km、南北60kmと比較的狭い県土に人口900万人が居住している。沖縄本島が長さ107km、幅31kmであるのと比較すると、規模感がわりと似ていることがわかる。面積でいえば神奈川県は沖縄本島の約2倍である。

なお沖縄本島の人口は120万人である。したがって神奈川県の人口密度は沖縄本島よりもはるかに高く、市街地における基地の危険性をいうならば沖縄県に劣るとはいえない。

事実、神奈川県からはわずかに外れるが、昭和39年には町田市の国鉄原町田駅前に米軍機が墜落するという衝撃的な事件が発生している。町田といえば町田市だけでなく、神奈川県相模原市をも商圏に含む首都圏でも指折りの繁華街である。

奇しくもこの米軍機は、沖縄県の嘉手納飛行場から神奈川県の厚木飛行場に向かう途上だったと伝わる。

さて、そんな神奈川県のうちでも相模原市は、一名「軍都」とも呼ばれる基地の町である。

かつては国鉄相模原駅の上り線ホームにフェンス1つを挟んで米軍の補給廠(基地の1種)が広がっており、ホームから基地に向かって物を飛ばして飛距離を競って遊ぶ子供たちを見たことがある。

旧津久井郡を合併する前の旧相模原市域には、わずか90km2の土地に3つの米軍施設がいまも存在する。

 

(相模原市の軍用施設と、その現在。網掛けは米軍施設)

その内の1つ「キャンプ座間」には、あのジェンキンスさんが北朝鮮からの帰途に一時滞在していたことで知られる。

さて、そんな米軍施設もかなりの部分が返還され、上に挙げた補給廠も周辺部は返還されて大幅に縮小された。

跡地には、市民の誇りである宇宙航空研究開発機構(JAXA)や、市民の憩いの場である相模原公園、その他大小の学校や大型施設がたくさん建てられた。

日本が一定の経済成長を遂げ、都市化が進んだ後にこうしたまとまった土地が出てくるのは、本当に貴重なことなのだ。

一方で相模原市内には三菱重工の工場が立地するが、これも基地の存在と無関係ではないだろう。

地域振興の観点から見ても、基地というものは注目に値する。

どこの国であっても、これといった産業が存在しないような辺境における軍事基地は、一面で地域振興の役割を担っている。

基地が立地すれば、そこに一定の兵員が派遣されてくる。

沖縄本島ほどの都会に必要かどうかはわからないが、彼らへの給料は地域への補助金のようなものだ。

そのお金が地域で回ることによってある程度の人口も維持され、次世代の飛躍の種にもなり得る。

外部の人間の知識や考え方は、地域住民にとっても新鮮な刺激になるはずだ。

基地というものはいろいろ問題を抱える存在であることは事実なのかもしれない。

しかしそれが短兵急に処理できないものであるならば、それに伴う経済効果を利用して、一段、二段飛躍することを考えるずるさがあってもいいように思う。

普天間基地問題がどのように決着するのかはわからないが、どのような形で決着するとしても、きっと明るい未来を描くことはできると思う。

もし現在の計画通りにキャンプ・シュワブ内の辺野古への移設が進むのだとしても、それに伴う新しい状況に対応して宜野湾市は跡地の有効な利用法を、名護市は地域振興を考えてみるのも良いのではないだろうか。

 

 

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