真岡鐵道は茨城県の下館と栃木県の茂木の間を結んでいる。

芳賀地区を縦断するように走り、下館でJR水戸線および関東鉄道常総線と接続している。

SLの運行で有名である。

一昔前は、SLといえば国鉄山口線と大井川鉄道の専売特許のようなものであったが、ここ真岡鐵道は後発ながら、平野を走るSL、首都圏のSLという条件もあってか活況を呈してきた。

しかし会社としてもうかっているようには見えない。




会社が発表している平成26年度の輸送実績を見ると、年間で普通旅客が23万人、通勤定期が6万人、通学定期が71万人、SLが3万人であった。

注意書きによれば、定期客は1ヶ月30日乗車したものとみなして計算されているから、定期券を購入した旅客数は通勤定期が156人、通学定期が1972人ということになる。

もう少しほしいところだが、沿線市町村は筑西市が人口10万人、真岡市が8万人と、あまり大きくない。

それ以東は益子町2万人、市貝町1万人、茂木町1万人となっている。

平成26年度の損益計算書を見ると、営業損益は約1億円の赤字である。

真岡線SL運行協議会からSLの運行を受託しており、7千万円の受託収益が記載されている。そして補助金が8千万円。これでおよそ収支トントンである。

鉄道事業の営業費が42億円であることを考えると、補助金の比率は決して小さいものではないが、状況の割にはよく頑張っているようにも思える。

(真岡鐵道の平成26年度の損益。真岡鐵道webサイトより)

真岡鐵道の主戦場は栃木県の芳賀地区であるが、そもそも主要都市間輸送のルートがこの芳賀地区を通っていない。

しかも真岡鐵道は盲腸線。

したがって通過輸送は見込めず、利用者は沿線住民と、芳賀地区を目的地とする旅客に限られる。痛いところだ。

だが真岡鐵道は、沿線住民の移動の動線からみても悩ましいルートを選択している。

だいたい地方では、鉄道というものは長距離で利用するものである。

自動車よりも公共交通機関利用を考える目的地は「都会」と「大都会」、栃木県であれば「宇都宮」と「東京」である。

だが真岡から宇都宮に行くためには自動車を利用するだろうし、東京に行くにはJR石橋駅などからJR宇都宮線を利用するはずだ。

鉄道は、どちらの動線にも沿っていないのだ。

なぜこんなルートになってしまったのだろうか。

それは舟運を鉄道で代替したからに違いない。

川の流れに沿った線形にはなっているのである。

実は、沿線である芳賀地区は、どこからでも宇都宮市への通勤が可能である。

だから、宇都宮~真岡、宇都宮~市塙などのスポーク路線が存在すれば、真岡鐵道はその培養路線として機能すると考えられる。

しかし規模の似ている熊本に所在する熊本電鉄の難しい状況を見れば、宇都宮~真岡間に鉄道を敷設しても、その未来もなんとなく予想できる。

JR石橋駅~真岡車庫間のバスは1日15本である。鉄道で代替するほどの需要は無いということだろう。

芳賀地区には「ツインリンクもてぎ」という人気の施設が存在する。

しかしそこへ行くには、終点茂木駅からバスに乗り継いでさらに20分を要する。

それならば水戸まで特急で行って、そこから直行バスに乗った方が便利ではないか。

平成30年のMotoGP日本グランプリでは、3日間で9.6万人の来場があったらしい。

このうち1割が鉄道を利用すれば1万人である。これだけの人数を少数の運転手で裁けるのは、鉄道の最も有利な点ではないか。

実際に、ツインリンクもてぎでのイベント終了後に、会場周辺の道路が大渋滞しているのを見たことがある。

茂木駅からツインリンクもてぎまでわずか数キロ。しかしその数キロを延長するための費用は捻出できないのだろう。

せめて、一部の自動車が「道の駅もてぎ」に駐車してもらって、そこから会場へのピストン輸送だけでも担うことができたならと思う。

しかして実際には、線路は道の駅に接して走っているのに駅は無く、道の駅からSLに向かって手を振ったりカメラを構える大勢の人たちを横目にSLは悠然と通過していく。

そしてSLが終点の茂木駅に到着すると、列車から吐き出された旅客が閑散とした駅前を目にして途方に暮れるのである。

(というのは少々言い過ぎで、少し足を伸ばせばいくつかの見所はある)

じつは戦前には茂木駅から茨城県方面の延伸が計画されていて、路盤の建設から一部は線路の敷設までされていたとか。

しかしその遺構は茂木から直北へ向かっており、ツインリンクもてぎの近くは通っていないので、活用することができない。

じつに歯がゆい

益子陶器市というイベントもある。

春は40万人、秋は20万人を動員する大イベントだ。

しかし、観光協会のwebサイトで推されているのは、秋葉原から2時間半で益子に到着する往復3,700円の直行バスである。

ただ、こうした短期のイベントへの対応は難しいところである。

そのために施設や人員を確保すれば、それらがそれ以外の時期には遊休化してしまうからである。

本来なら沿線の人口が増えて基礎的な輸送量が増えるのが望ましいが、そもそもがJRが経営継続困難と判断して切り離された路線なので、将来的な黒字化の見通しはかなり厳しい。

さて、先ほど、秋葉原→益子の臨時直行バスが片道2時間半・往復3700円であると書いたが、鉄道利用ではどうなのだろう。

たとえば秋葉原を10:02に発車するつくばエクスプレスに乗車すれば、守谷と下館で乗り換えて12:43には益子に到着する。

意外に健闘しているのではないだろうか。これは2005年に開通したつくばエクスプレスの高速運転の賜物だ。

とはいえ、それでもバスにやや劣る。

運賃は問題で、片道で2900円もかかる。高くて遅ければ、利用する人はいない。

このルートが活性化するためには、真岡鐵道以上に常総線のスピードアップが必要だ。

問題は真岡市の人口が、それに見合っただけ増えるかどうかであって、そこは市町村が頑張るべきところである。

というわけで、難しい経営を強いられていながらも、いろいろと潜在的な可能性を感じさせるのが真岡鉄道である。

東京にも近く、第三セクター鉄道の中ではかなり恵まれているのではないか。

株主の一覧を見ても、多くの地元企業が名を連ねており、地元から支持されていることが判る。

(真岡鐵道の株主。真岡鐵道webサイトより)

ただし可能性はあくまで可能性であって、現状は赤字である。

廃止するならよいが、残すならば、なんとかして金を産むシステムに変えていかねばならない。

 

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