よっくすは過去に、既存の会社とは別会社が運営する多層建て列車という案を紹介した。

例によって何かの受け売りだったように思うが、よく覚えていない。

ともあれ、これで十分かと言えば、そうではないように思う。




今日は夜行列車の問題を2点、挙げておきたい。

ひとつは適正なコストで運航することが困難であることだ。

ピッチを1.2mまで詰めても15列で18m。

乗降用デッキも必要だし、一般的な20mの車両ではこれぐらいが限界だ。

座席なら4席並べれば60人が乗車できるかもしれないが、寝台なら1両15人。

新幹線は16両で1325席だが、1両15人では15両つなげてもたったの225人である。

だからといって、通常の運賃・料金の4倍を請求されたら、だれしも高いと思うだろう。

東京から大阪まで新幹線で14,000円程度だが、もし寝台特急で56,000円だったら利用者はいるだろうか。

家かホテルで泊まって、翌朝の新幹線で行ったほうがいいのではないだろうか。

それでいて運航時間は深夜だ。

タクシーなら割増料金を取られるが、夜行列車が2割増しで東京~大阪67,000円ならどうか。

夜行列車の適正価格はこんなものだと思うが、ピッチが1.2mでこの価格では、日常的に利用したいという人は少ないだろう。

快適に寝られて、かつ1両に60人ぐらい詰め込めれば、利用しやすい価格を設定できると思うのだが。


2点目は、労働環境の変化だ。

 

働き方改革という言葉に端的に示されるように、今やサラリーマンに24時間営業を強いてよい時代ではない。

通常の出張なら、少なくとも建前では昼間に移動して、夜はゆっくり寝られるような命令を出す必要がある。

そもそも東京から鹿児島まで飛行機を利用すれば1時間半程度で行ける時代だ。

日本のどこであっても飛行機とレンタカーを組み合わせれば、朝に出発して夕方までには到着する。

そうなると、要するに朝一番の飛行機に乗って翌日の行動を遅めに設定するか、前日に早引きして出発し、現地近くで投宿すればそれで済んでしまう。

夜行列車がどれほど効率的な時間帯に設定されていたとしても、それを利用する必要性は特にないのだ。

そんな状況で出張に夜行列車の利用を命じたら、それはブラック企業そのものだ。

現代でも、必要があれば夜行便も利用されるのであって、現に、昼夜兼行で飛行する国際線旅客機を出張に利用することを疑問に思う人はいないだろう。

だが、夜行列車はビジネスにおいて全くニーズに合わなくなってしまったのだ。

もちろん僻地から僻地への移動であれば時間的に苦労するのだが、そうした需要の1つ1つはロットが小さすぎるので、夜行列車の運行ルート上には乗らない。

必然的に、夜行列車へのアクセスのために鉄道や自動車に揺られることになる。

その点で飛行機と変わらず、長距離移動がとくに列車でなければならない必要は無い。

ビジネスの需要を失うと、残すところは観光で稼ぐしかない。

しかし観光の需要はビジネスと比較すればずっと小さいし、季節的な波動もある。

客単価を上げなければ稼げない。

昭和末期から平成初頭にかけて、豪華な寝台特急が続々登場したのはそうした背景があったのだろう。

今後夜行列車が再び現れるかどうか。

それは結局、ビジネスに利用されるかどうかにかかっている。

実のところ、ビジネスマンの中にも鉄道ファンは多く存在するので、夜行列車を期待するビジネスマンは割といると思われる。

そうした人が夜行列車を利用できる社会環境が整えば、そうしたニーズに応えて夜行列車が現れるだろう。

たとえばサラリーマンにおいて、旅費が定額で、個人が自腹で上積みすれば何を使ってもよいということになれば、いろんな変則的なニーズが発生する。

しかしいま公務員が飛行機のファーストクラスで出張したら、たいへんなバッシングを受けるだろう。

出張旅費をエコノミーの正規料金を上限として支給し、超過分を自腹で負担すればファーストクラスに乗れる、というのは、そんなにいけないことか。

現代の日本の社会環境では、それは「公私混同」とみられるおそれがある。

だが、そのぐらいは社会的に許容してあげてもいいのではないかなと思う。

現代の公務員は、公務において一切の楽しみを捨てて業務に完全に集中すべきものとされているが、出張の往復においてまでそれを強制することが最も効率的な執務態度かといえば、それは違う気がする。

そうしたコンセンサスが得られれば、列車に対しても一定のニーズが発生するので、夜行列車の寝台もある程度は埋まっていくだろう。

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いずれにしても、現代の国内出張の主役は飛行機と新幹線とレンタカーであって、夜行列車は必要不可欠な存在ではない。

まずは東京~大阪で運航が可能かどうか。

端的に言って、日本において夜行列車は過去に担ってきた社会的使命を終えたのだ。

それらに対して郷愁を抱くのはよっくすも同じだが、それはSLや馬車に対して抱く気持ちと似ている。

結局のところ、夜行列車が今後も必要かどうかは、ビジネスを大きく効率化できるような画期的なニーズを新たに提供できるかどうか、そこにかかっているのだ。

たとえば夜に東京を発車して、朝に東京に還ってくるような周遊列車ならば、平日にも一晩の冒険を楽しむことができるかもしれない。

 

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