地方の過疎化の原因として、「働き口が無い」ことがしばしば挙げられ、全国どこでも雇用の確保に躍起になっている。

人が雇われるためには生産活動がなければいけない。

もちろん自営業でもいいし、そのほうがより望ましいと思うが、生産活動が必要だという点は同じである。




よく見かけるのが、既存のものに何か地元の特産物を加えて、地域限定モノとして売り出すというものだ。

地元の土産物屋であればそれなりに売れるかもしれないが、それは商品に付加価値を付けたというよりは、観光地やビジネス都市としての地元の付加価値を利用したものと考えられる。

中には真に付加価値を付与して利益を上げる場合もあるだろうが、その評価はわれわれ素人には難しい。

もっとも、こういうものは知名度を上げることが目的であって、生産活動としてはあまり大きくないからこれでよいのかもしれない。

 

日本は広いので、各地方に独特な気候風土と、それによって生まれた様々な特産品はある。

ほかにも地方が有利な点はいろいろあって、たとえばどんな地方でも東京と比べれば家の周りに豊かな自然が広がり、レクリエーションも多く、職住近接で渋滞も少ない。

しかしそうした点をアピールしても雇用の増加や人口の増加につながることはない。

一口にいえば、それらは奢侈の世界、プラスアルファの世界であって、関心が無い人にとっては意味がないからである。

そして趣味は多様化しており、関心外の問題については極力低コストで抑えたいのが当然だ。

普遍的な価値を持つためには、特産品が使われてちょっとお高いものよりは、シンプルでよいから安いもののほうがいい。

 

客観的な評価が可能な唯一の指標、それはやはり金額だ。

あなたの土地に工場を建てると、製造品のコストはいくら安くなるのか。

それに尽きる。

たとえば製造業であれば、原料は世界中を見回して最も良いものを輸入し、市場はもっともニーズがあるところを選んで輸出しなくてはならない。

「最も良いもの」とは、製品に必要な水準を満たすもののうち最も安いもの、ということになる。

その中で地元の特産品を使うべきかどうかは、それによっていくら安くなるかにかかっているのだ。

もちろん市場は全世界に普遍的なものである必要は無い。

ある種の病気の人に対応するために天然素材を利用する、というようなニーズの定め方はありえる。

スマートホンなどは世界中で売れるだろうが、そうでなくてもよいのだ。

しかしその場合でもその「天然素材」は世界で最も良いものを探すべきであって、そこで価格を無視して地元産のものを持ち出せば、敗退は必至である。

 

一般論として、都市は地価が高いが人材や情報を得やすい。

地方のメリットとデメリットはその裏返しというわけだ。

そして製造業においては港湾に近いほうが有利だが、業種によってはまた別の要素が関わってくるに違いない。

通信の回線が太ければ有利だし、電気代も無視できない。

「発電所に土地を提供したのだから電気代を安くしてくれ」などと電力会社に交渉して成功すれば、それも有利に働くだろう。

通年、乾燥して冷涼であれば、さほどエアコン代をかけなくも適切な空気を供することができるし、良質の水も活かせるかもしれない。

 

で、それらを利用すると、製造コストは世界一安くなるのか。

身もふたもないが、結局はそれに尽きるのである。

 

よっくすは「105. 古代日本の産業革命」において、産業の主力が漁業から農業に転換したことにより、居住に有利な立地が変わって人口の分布が変わったのではないかと推定した。

105. 古代日本の産業革命

それと同様のことは常に起こるのであって、人口の集積地は産業構造の変革とともに移動してきた。

製造業においては今後も臨海部が有利であり続けるだろうが、新しい産業には別の立地が有利になるはずだ。

国家的見地に立てば、そういう土地を見立てて、そこに集中的に投資していくことも必要になるのかもしれない。

 

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