リニア中央新幹線の建設における問題を取り上げる。

いま話題の、大井川の水問題によって静岡県知事が建設に許可を出さないという問題である。




言うまでもなく大井川は、「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」とうたわれた、東海地方を代表する大河である。

ところがその流域が意外に狭い。

図に示したように、長さこそ長いが有力な支流がほとんど無い。

このために、長さの割には流量に乏しい傾向にある。

また多数の支流を擁する河川であれば、ある支流が渇水でもどこかで雨が降れば下流ではそれなりの流量が確保されるであろうが、ここまで支流が乏しいと渇水になりやすい傾向があると考えられる。

その一方で、その源流は海抜3000mを越す南アルプスの麓に端を発することから、その本流はかなりの急流となる。

またその流域は地質が脆く、大量の土砂が運ばれるため、下流に広大な平野を形成している。

その源流付近をリニアが経由することになっている。

最北の集落である井川地区よりもさらに上流になる。

正確なルートはよくわからないが、リニアは大井川の地下をトンネルで貫通し、東は早川付近で、西は小渋川付近で地表に出ることになっているようだ。

トンネル工事の常識として、中央部が高く、開口部が低くなるように建設される。

そうしないと出水の際に大事故になる。

しかし、結果としてリニアの坑道から大井川の地下水が漏出し、その分、大井川の水量が減ることになるのではないか。

これが現在問題になっている、大井川の水問題である。と、思う。

リニアは、今の日本では珍しく大きなプロジェクトだ。

金額の大きさではない。

投資に対する効果の大きさだ。

理想的なインフラストラクチャーの投資は、世の中を一変させるような大きな効果があるものだ。

たとえば新幹線。

たとえば首都高速。

たとえば電線の敷設。

そうした投資は社会を便利にし、経済を発展させ、人々を豊かにする。

だからやがてそれらの寿命が尽きたならば、単なる修繕や保守ではなく、より革新的な技術によって置き換えられるのが望ましい。

しかし今の日本にはそうした革新的な技術に乏しいし、あっても既成のシステムの力が強くて革新を阻んでいる。

そうした中でリニアは、飛行機のような速度で列車のような輸送力を発揮する、日本を変革させる可能性がある新技術だ。

しかも完成すれば東海道新幹線に余裕ができる。

静岡県からの通勤ができるかもしれない。

あるいは東京―名古屋、将来は東京―大阪の貨物列車に使えるかもしれない。

それがうまくいけば、たとえば直ちに札幌―宇都宮の新幹線貨物に応用することができ、いま問題になっている、青函トンネルにおける新幹線列車と貨物列車の干渉問題も容易に解決することができるのだ。

さらに、そんな夢の技術が、いち会社であるJR東海の資本で実現するのもすばらしい。

国家プロジェクトだとどうしても、続く普及も国費となり、どうしてもかつての我田引鉄の弊が脳裏によぎる。

しかしリニアは、受益者であるJR東海が投資するという正常な経済の原則に則って行われるのだ。

 

さて多くの河川と同様、大井川の水資源は極限まで開発されている。

上流部こそ人跡未踏の山地が広がっているが、下流部では乏しい水資源を最大限利用して農地や都市が開発されている。

わずかでも水をロスすれば、致命的な影響を受ける人々は存在すると思われる。

どうすればよいのか。

正直言って、建設する以上漏水は避けられないし、それをダメだと言えば建設できないだろうなと、よっくすは思う。

たとえば、トンネルの出口で水を受けて、それをトンネルで導水して大井川に戻すとしよう。

まず長野県側を見てみる。

リニアは小渋川付近で地表に出るが、荒川岳の直西ならば海抜1000m以上あるし、青木川との合流点でも海抜700m以上だ。

ここから導水するならば、畑薙ダム(堤上で海抜946m)の下ぐらいに吐出すればよいのではないか。ただしそれでも、直線距離で30km以上の大工事だ。

より問題なのは山梨県側だ。

こちらは早川で地表に出ることになっているようだが、こちらは新倉地区で海抜500m、早川地区で海抜450m程度しかない。

ここから大井川に戻すとすると、少なくとも長島ダムより下に吐出しなくてはならない。

直線距離で40km程度、実距離ではおそらく50kmぐらいにはなるのではないか。

またこのことでわかると思うが、たとえば大井川の流量を評価して、最低限の流量を下回った際には富士川や天竜川から導水してくるというような奇策を用いるとしても、その導水路はたいへん長いものになるのである。

それ以前に、そもそも富士川や天竜川で水が余っているということはないだろうが。

一方で、地表に出る位置を工夫することで、坑口の標高を少しでも高く設定できれば、それだけ導水トンネルは短くすることができる。

同じ早川流域でも下湯島地区なら海抜650m、奈良田地区なら海抜850m。

また上流に行けば行くほど谷が狭くなることから、より高い位置に橋梁を設置することが可能となり、したがって坑口も高く設定できるのである。

 

導水トンネルなどというアイデアは現実的ではないかもしれない。

しかし問題を解決するための作戦が定まれば、このように多少のルート変更などによってより良い解決策が生み出されることもありえる。

よく考えて、良い解決策を生み出してほしいと思う。

 

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