さて素人の身を省みずに今回もサッカーの話である。
W杯に出場する諸国は、実際のところどのくらい強いのか、という話である。
世間にはFIFAランキングというものがあり、各国の実力が反映された最も良い指標だと思うが、それだけでは不十分だ。
順位以上の実力の絶対値はわからないし、もっと別の指標も併せて見たほうが正確性が増す。
そこで、今回は各国代表を構成する選手の個の力を診断してみよう。
現代のサッカーでは有力選手はヨーロッパに集中する。
そこで、ヨーロッパでも特にレベルが高いとされる「五大リーグ」の強豪に、どのくらい選手を輩出しているのかを指標に見ることにしよう。
しかし、ひとくちに五大リーグといっても格差はあるし、各リーグの内部でも、巨額の資金を有するビッグクラブと、下部リーグとスレスレのエレベータークラブとではかなりの実力差がある。
そこで、ここでは五大リーグの中でも、全ヨーロッパのコンペであるチャンピオンズリーグ(CL)とヨーロッパリーグ(EL)へ出場したクラブに限定する。
分析に時間がかかるので、現在進行中のリーグではなく、一年前の2016/17年のデータを使うことにする。
ダイレクトに今回のW杯の実力が反映しないが、そこは許してほしい。
さて、2016/17年の各国のリーグ戦の結果、2017/18年のCL、EL出場権を獲得した五大リーグ所属クラブは以下のとおりである。
これらのクラブに所属している選手を分析するわけだが、所属するだけで出場機会を失っている選手は、レギュラー選手とは実力差があると考えられるので、できればレギュラー選手の輩出数を見たい。
そこで、各国のリーグ戦の試合数の半数以上に先発した選手、と定義する。
この定義により、レアル・マドリードで出場機会を失っていたハメス・ロドリゲス(James Rodriguez、コロンビア)や後半戦にブレイクしたモナコのキリアン・ムバッペ(Kylian Mbappé、フランス)などは、残念ながら外れることになる。
ただし、ゴールキーパー(GK)に関しては、出場数2位の選手(複数存在する場合はすべて)まで含めた。
CL、ELに出場したクラブで、上記の定義を満たした選手は403人いた。最も多いのはスペインで、以下フランス、ドイツと続く。
日本は以外に健闘している。
日本の3人は大迫勇也(ケルン)、原口元気(ヘルタ・ベルリン)、酒井宏樹(オリンピック・マルセイユ)だ。
低迷していた香川真司(ドルトムント)や本田圭佑(ミラン)は半数以上の試合で先発していない。
レギュラーだった吉田麻也(サウサンプトン)や乾貴士(エイバル)は、クラブが上位に出場できなかった。
したがって、日本人であって、実力でクラブを上位に押し上げたといえるのは上記の3人だけだ。
この表を見る限り、日本と同居する3か国と比較して大差なく、なんとか健闘できそうに思える。
だが、CLに絞ってみたらどうだろう。
激戦のイングランドを除けば、CL組とEL組ではかなりの実力差があるように見える。
「CL」と銘打ったが、マンチェスター・ユナイテッドは除いた。
リーグでは上位に進出できず、ヨーロッパリーグの優勝によってCL出場権を手にしたからだ。
この定義だと、基準を満たす選手は231人となる。
五大リーグで勝ち上がってCL出場権を手にしたクラブのレギュラー。
ワールドクラスとまで言えるかどうかはわからないが、世界最高峰の実力者たちと言っていいのではないだろうか。
残念なことに日本人は0だ。対して、W杯グループリーグで日本と同居する3か国は、いずれも数名の選手を擁している。
具体的には以下の通りだ。
*ポーランド*
ヴォイチェフ・シュチェスニー(ローマ、正GK)
ロベルト・レヴァンドフスキー(Bミュンヘン、FW)
ウーカシュ・ピシュチェク(ドルトムント、DF)
カミル・グリク(モナコ、DF)
*セネガル*
サディオ・マネ(リヴァプール、FW)
セイドゥ・シ(モナコ、控えGK)
*コロンビア*
ファン・クアドラード(ユベントス、MF)
ラダメル・ファルカオ(モナコ、FW)
一年前のデータなので、現在でも実力を維持しているかはわからないが、W杯に出てきたら、この辺の選手に注目してみたらよいのではないかと思う。
身もふたもないが、これが日本の個の力だと言わざるを得ない。
ハリルホジッチ監督は、実力では話にならない日本を何とか勝たせるために、万に一つの勝機を探っているのだという現実を理解しよう。
さて、話は変わって、もう少し違う視点でも分析してみよう。
これらの選手のうち、GKはどのくらい含まれているのだろう。
GKは特殊なポジションだ。ワールドクラスのGKを擁しているかどうかは、各国の戦力に大きな影響があるように思える。
ドイツはすごい。
表中だと、チェルシーとリヴァプールの正GK(クルトゥワとミニョレ)を擁するベルギー、モナコの正GK(スバシッチ)を擁するクロアチアは、レギュラー輩出数の割にはやりそうに思える。
逆に危ないなと感じるのが、ユベントス、ローマ、ナポリの控えGK(ネト、ベッカー、ラファエウ)を擁するにすぎないブラジルと、控えGKさえ一人も輩出できないイングランドだ。
アルゼンチンも、マンチェスター・シティとニースの控えGK(カバジェロとベニテス)しかいないが、カバジェロはいちおう16試合に先発している。
次に、監督輩出数だ。
この表を見ると、やはりイタリアが出場を逃したのはもったいなかった。
フランス人は、ELレベルではそれなりに人材を輩出しているが、CL出場権を獲得できたのはジダン(レアル・マドリード)のみである。
残念ながら日本人はいない。それどころか、非ヨーロッパ人も2人だけだ。
それだけにアルゼンチンの健闘が光る。これもアルゼンチンの強さの秘密の一つではないだろうか。
何とかこのジャンルにも日本人が挑戦して、結果を出してほしいと思う。