九州新幹線の開通以来、指宿温泉が盛況となる一方で、霧島温泉が振るわないと聞いたことがある。

指宿は鹿児島中央駅から列車でアクセスできる。霧島は鹿児島空港からほど近い。

要するに、客が飛行機から新幹線に移行した、ということだと考えられる。




そこで、この話を検証するために、両温泉を抱える指宿市と霧島市の入湯税収入の推移を一瞥してみよう。

なお、指宿市、霧島市ともに2006年、2005年に合併によって成立しており、それ以前については現市域にあたる市町村の合計の数値を掲載した。

九州新幹線の部分開業、つまり新八代~鹿児島中央間の開業は2004年3月13日。この開業の影響は限定的であるようだ。しかし2011年3月12日の全線開業の威力はすさまじい。

実は全線開通は、あの東日本大震災の翌日だった。全国的な自粛ムード、しかしそれを物ともせずに、指宿市の入湯税収入は飛躍的な上昇を見せ、霧島市に迫った。

しかし、よく見てみると、2006年以前は指宿市と霧島市は拮抗しており、それ以降は指宿市は霧島市に次第に水をあけられていた。新幹線効果で再接近したものの、それ以降はふたたび引き離されている。

こう見ると、新幹線効果も一時的なカンフル剤的効果に終わり、指宿の頽勢を覆すには至らなかったようにも見える。むしろ、2010~2011年の新燃岳の活動によって人気を落としたはずの霧島の、その後の健闘ぶりが際立ってみえる。

霧島は文句なく素晴らしい。

地域のシンボルとも言える、高千穂峰・韓国岳の両峰に抱かれ、そこかしこに高い品質の湯が沸く様は、それだけでも人を惹きつけるのに十分すぎるほどだと思えるのに、名社霧島神宮、高千穂牧場、百年の歴史を誇る嘉例川駅など、見所にも事欠かない。

(霧島の高千穂峰の頂上にある天の逆鉾)

薩摩半島の尖端に位置する指宿とは異なり、宮崎や熊本からも気軽にアクセスできるのも霧島の有利な点だ。天孫降臨伝説に加え、近年では坂本龍馬がおりょうを伴って訪れたことが日本初の新婚旅行と評価されたことで、一段と人気を高めた。

 

指宿だって、それに劣らぬ魅力を備えている。

有名な砂蒸しは言うまでもないが、何よりもお薦めしたいのは知林ヶ島だ。1kmにも及ぶトンボロ、それも夏の大潮の干潮時にしか渡れないという神秘、それでいて絵に描いたような美しい島影。羽田空港のパネルでこの島の写真を見たとき、これほど素晴らしい島があるのは、いったいどこの国なのだろうかと私は思った。

(写真は「いぶすき観光ネット」より)

他にも指宿は、薩摩富士の二つ名で知られた開聞岳や、そうめん流しで有名な唐船峡にほど近く、人気の高い知覧と組み合わせて旅程を組みやすいというのも良いところだ。大河ドラマの主人公となった篤姫の実家が領した今和泉も指宿地区に所在する。

それでも入湯税のデータを見る限りでは、依然として霧島の人気は指宿を凌いでいるようだ。

新幹線の効果らしきものは見えたのだ。それは指宿に有利に働いた。しかし、それだけでは限界があることも同時に見えた。新幹線の効果を拡大して安定した収益に結びつけるには、さらにどのような手が必要なのか。

まず指宿は、温泉プラスアルファ、組み合わせで勝負すべきだと思う。組み合わせるべきアイテムのいくつかはすでに上述したが、それらの魅力を発信していくことで、指宿単体ではなく、薩南地区一体のパッケージで売ったほうが良い。地区内に良い港湾を抱えるメリットも活かせるかもしれない。

たとえば鹿児島のパワースポットとして密かな人気を集める釜蓋神社(頴娃)などは、もう少し知名度があっても良いと思う。参拝者が皆々、頭に釜蓋を載せて歩く様は壮観だ。

あるいは坊津。ここは室町時代、堺、博多と並ぶ、「三津」の一つに数えられた大貿易港だったのだ。その歴史的価値から言えば知覧に劣らず、むしろ勝っているとさえ言える。

しかし、そうだとしても指宿自身の魅力をさらに高めていくことも必要だ。砂蒸しだけではいずれ陳腐化して客が来なくなる。周辺の観光地の魅力が高まっても、知覧から枕崎に行って、吹上浜に行って、それで帰られてしまっては元も子もない。指宿だけが温泉ではないのだ。

霧島は最高級から大衆的まで、山奥から山麓まで、ラインナップが広く、しかも多い。指宿にもその名を知られた有名な温泉ホテルなどがいくつもあるが、率直に言って温泉のみでは指宿は霧島には及ばない。指宿が何よりつらいのは、山に抱かれた霧島とは異なり、普通の市街地のほど近くに立地することだ。その町並みが、たとえば飫肥のように町自体が風情があれば良いのだが、指宿はあくまで普通の生活が営まれる都会である。霧島を訪れたときのような非日常感が得られにくいのだ。

それに加えて指宿は半島の尖端。指宿枕崎線の路線図の影響か、全国的には指宿の先に枕崎があると思っている人も多いと思うが、じつは鹿児島市から見れば指宿よりもむしろ枕崎の方が近い。指宿は本当に尖端なのだ。この事実が、鉄道や道路で容易にアクセスできるという長所を、半ば打ち消してしまっている。

結局のところ、指宿の町は、訪れて楽しい町、歩くだけで楽しい町、仮に温泉がなくとも訪れてみたくなるような町とはどんなものか、それを突きめていった先に未来があるのではないか。そこに付加価値として、全国にその名を知られた温泉が町内にあるのなら、それこそ素晴らしいことなのだと思う。

 

指宿の次の手に期待したい。

 

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