路面電車。何か神秘的な響きがある。
町の中でのそのそと走り回る様子はどことなくユーモラスで、つい気を引かれる。
しかしノスタルジーだけでは路面電車を維持することはできない。
維持するのにもお金がかかる。
自動車にとっては邪魔でもある。
そもそも、路面電車に限らず、システムというものは何か必要があって構築されるものだ。
路面電車はどのような問題を解決できる手段なのだろうか。
路面電車は輸送機関だから、建設によるメリットは2つある。速さと輸送量だ。
問題が、それが他の手段よりすぐれているのかということだ。
まず路面電車は速いのか。
速くはない。
たぶん、道路が舗装されておらず、自動車の普及率も低かった時代は速かったのだと思う。
しかし今は違う。
だからといって路面電車に時速200kmで走られても危険きわまりない。
それに、「速さ」といった場合、我々にとって現実的な意味があるのはドアツードアの速さだ。
乗り換えの度に駅で何分も待たされるようでは、電車が駅から駅まで、たとえ光の速さで走っても自動車には勝てっこない。
結局のところ、電車が自動車より優るためには、「自動車では時間がかかること」「電車が頻繁に走っていて待たずに乗れること」の2点が必要だ。
航空機との競争になるような長距離ではまた別だが、ここでの主題は路面電車なので、あくまで都市交通の文脈で考えることとする。
しかし、そうだとすると、路面電車よりもバスの方が便利なのではないだろうか。
路面電車は線路の続くところしか走れないが、バスならばどこへでもゆける。行き先を分岐させることも、需要の変化に応じて修正することも容易だ。
もちろん、バスは定時性の面で鉄道よりも劣っている。
しかし近年ではバスレーンが設置される例も増えたし、路面電車も渋滞や信号の影響を少なからず受けるので、以前ほどの差は無いとみた方がいい。
路面電車のために線路の幅を道路の真ん中に占有するくらいなら、またそれほど広い道路幅を確保できるのならば、バスレーンの方がよいのではないだろうか。
輸送力の点ではどうか。
いま仮に、自動車の長さを5mとしよう。
車間が15mならば、20mに1台の自動車が走ることになる。時
速30kmで走るとすると、1時間に1,500台だ。
片側2車線なら3,000台/時。
平均して1台に2人乗っているとすると、6,000人/時の輸送力があることになる。
一方の路面電車はどうか。
豊橋鉄道東田本線のモ3100形電車の定員は115人だ。
5分に1便が走るとすると、1時間に12便を出せるから、1,380人だ。
これにより、自動車690台分を削減できるが、それは車線1本分を占有するにしては少なすぎないだろうか。
2分に1便出せれば、3,450人/時(自動車1,725台分)になって、自動車に匹敵する値となるが、それでも十分とは思えない。
ここまで挙げなかったが、実は軌道上を走る電車は1人の運転手で多くの車両を運転できるというメリットがある。
自動車ではせいぜい2両までだと思うが、東海道新幹線は16両編成。
もし上記のモ3100形電車でも、5両もつなげば1編成の定員は575人にもなる。
これが5分に1回走れば、1時間で6,900人。
しかもこれを、たった12人の運転手で運用できるのだ。
これぐらいやってくれれば、路面電車を建設する意義もあるだろう。
あとはそれぐらい需要がある区間があるかどうかだ。
なお、京阪京津線では4両編成の電車が路面を疾走している。