日本で、天守閣が現存する城は12郭。
そのうち5郭は国宝に指定されている。
松本城、犬山城、彦根城、姫路城、松江城だ。
かつて放映されていた「暴れん坊将軍」なる番組では、エンディングで必ず「国宝 姫路城」なるクレジットが入っていたので、よっくすも姫路城は国宝なんだなと強く心に刻まれた。
じつはよっくすは姫路城の実物を見たことがないのだが、外国人に日本らしいものを一つ見せろと言われたら、よっくすなら富士山でも金閣でもなく、姫路城に案内するだろう。
それほどに日本の城郭は独特な形態と様式美を持っている。
残る七城、すなわち弘前城、丸岡城、松山城(備中)、丸亀城、松山城(伊予)、宇和島城、高知城も重要文化財に指定されている。
これらは、そこに在るだけで客を呼べる値打ちのある城趾と言えるだろう。
そのほかにも日本にはかつて無数の城があり、城郭建築こそ残っていないものの、今でも名所と案内されている城跡は多い。
しかし、現存天守が存在しないものは、どのように人々の注目を集めたらよいのだろうか。
そもそも残す必要が無いという考え方もある。それも一理ある。
だが、人々の記憶にとどめるために残すのであれば、有効な残し方というものがあるのではないだろうか。
それを強く感じたのは、函館の五稜郭を訪ねたときだ。
ここは日本に2ヶ所しかない五稜郭(函館と竜岡)の一つだし、戊辰戦争の帰趨を決定づけた箱館戦争の舞台でもあったのだから、遺構を残す必要があるという考えは理解できる。
しかし肝心の城跡がたんなる空き地では、もったいないのではないかと思ったのだ。
もちろん、熊本城のように、かつての城を復元していくという方法もある。
だがそれは、熊本城が、朝鮮で活躍した名将加藤清正が築いた名城で、西南戦争では薩軍の猛攻に耐え抜いて政府軍の勝利に貢献したという、強烈な箔がついているからこそ可能なことであって、全国に散らばる有象無象の城趾が同様の方法を取っても、ローカルな知名度を得るに留まることは見えている。
ではどうすればよいのか。
ヒントになるのは皇居だ。
(皇居二重橋)
言うまでもなく皇居は江戸城趾であって、そのままその敷地が皇居として利用されている。
日本一の城郭であった江戸城は、その敷地の広大さ、濠の深さ、いろいろな点でそれにふさわしい風格を備えていて、皇居として使用されていても何の違和感もない。
桜田門、半蔵門、田安門、清水門等々の城門は、今も城郭観光でなく、城内に何らかの目的を持った人々の往来で使用されている。
そう、たとえば江戸城北の丸には日本武道館が鎮座し、武道の試合やコンサートに使用されている。
現存天守はないかもしれないが、江戸城は現代にも現代的意義をもって使用されているのだ。
このことは、城郭建築が現存すること自体よりもむしろすばらしいことなのではないだろうか。
(国宝 松本城、現存天守)
江戸城の例は、石垣ぐらいしか残っていないが重要な役割を果たしてきた城郭が、どうすれば現代にも活きるのかを教えてくれる。
思うに、江戸時代の城郭は、要塞である以上に行政府であった。現代的に言えば、県庁や市役所に相当する。
であれば、そのまま市役所を城内に建ててしまえばよいのではないだろうか。
そうすれば、役場の建設費で城郭を維持補修できるので費用の節約にもなるし、人々の往来もあって、まさに現代的な意義をもって城が維持されていることになる。
あれ?よっくすは確か、駅ビルに市役所を入れろと言っていなかったっけ?と思ったあなた。
その疑問は正しい。
だが、メニューはできるだけたくさん用意しておいて、その町に最適なものを選択すべきではなかろうか?
(吉田城隅櫓、昭和29年復元)
立地面で惜しいのが豊橋市役所で、これは吉田城趾に隣接して建っている。
とはいえ、豊橋市役所といえどもその建物は(写真で見る限り)四角いコンクリートビルであって、こんな代物が城内に建っていたら違和感がありまくりである。
かといって、日本式の優美な城は、材木で建物を組んで、土を焼いた瓦で雨を凌ぐために確立された手法だから、それをコンクリートで再現しても、無駄ばかりで、今ひとつ機能美の点で美しくないだろう。
かといって、古式に則って木と土で市役所を建てたら、防火や耐震の面で問題ありまくりだ。
だが、その点を割りきって、現代風の建築を建ててしまう場合もある。
建てるのが市役所でなくても、文化施設は城趾と調和するように思える。
城跡自体が一種の文化施設だからだ。
日本武道館はその例といえるし、鹿児島市では歴史資料センター「黎明館」、県立博物館、県立図書館、市立美術館などが鶴丸城趾に建っている。
入る前に、大きな濠を越え、巨大な石垣を通っていくので、素人目にもそれとわかる。
決して、たんなる土地として使用されているのではなく、そこがかつて巨大な城だったことが判るようになっている。
模造天守がちょっとした博物館になって公開されている例は多いが、ここまでの規模のものは少ないと思う。